東京大学は2月10日、同大初の推薦入試に77人が合格したと発表した。募集人数(100人程度)を下回った。一方、女子と、関東以外の高校出身者が合格者に占める比率は、一般入試より高かった。志願者は10学部合わせ173人だった。

「関東以外」が半数超える

東大は、後期日程試験を15年度入試で取りやめ、推薦入試を導入した。筆記試験とは違う方法で選抜をすることで、学部学生の多様化を図るのが狙いだ。書類選考を通った149人に、12月に面接などの試験を実施し、大学入試センター試験の結果もふまえ、合格者を決めた。

合格者のうち女子が占める比率が38%に達し、一般入試前期日程(3月10日に合格発表)の18%を上回った。関東以外の高校の出身者の比率も56%と、前期日程試験(40%)より高かった。既卒者は7人だった。記者発表した南風原朝和副学長によると、選考で性別などへの配慮はなかったといい、「推薦は1校男女各1人まで」という規定が影響したとみられる。

8学部で合格者が募集人数の目安を下回った(表)が、その分は前期日程の合格者数を昨年度より増やしたため、合格者の合計は昨年度(前期日程と後期日程)と同じ3108人だった。

募集要項の記述改善も検討

推薦要件や選考方法は学部ごとに異なるが、「科学オリンピックにおける受賞歴があること」(理学部)など、高いレベルの基準が話題を呼んだ。基準の厳しさが志願者が募集人数の1.7倍にとどまったことに影響した可能性がある。南風原副学長は「各学部が(推薦要件に)例としてあげたものが、必須条件のように受け取られて、『そんなスーパー高校生はほとんどいない』という声が聞こえていた。(募集要項の)記述などは、今回の経験を踏まえて多少変更があるかもしれない」と話した。

相原博昭推薦入試担当室長は「各学部から推薦入試をやって非常に良かったという報告を受けている。ただ、改善点はあると思うので、高校とコミュニケーションを密にしていきたい。さらに良いものにしていきたい」と語った。

推薦入試合格者は入学後、一般入試合格者と共に教養学部(1・2年生)の授業を受けながら、進学先の学部が実施する教育も受ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東大推薦入試合格者に聞く 

 

 

面接というより対話で、楽しく話せました。これまで取り組んできたことを出し切れた充実感がありました。【鈴木敦己さん(2016年度工学部合格、福島・安積高校卒業)】

要項の「国際活動」に注目

東大工学部建築学科を志望していた鈴木敦己さんが推薦入試を受けようと思ったのは高校3年生の初め。発表された募集要項を見た時だ。目指す工学部の推薦要件に科学五輪などの経験と並んで、「社会問題解決に取り組んだ社会貢献活動・国際的活動」とあった。

鈴木さんは、校内で生徒会長を務めながら、学校外では日中高校生の交流事業「あいでみ」の活動に打ち込んでいたので、募集要項を見て「いける!」と思った。あいでみは、鈴木さんの転機になった活動だ。1年時に中国・上海を訪問し、世界が広がった。この事業は高校生が企画・運営する。2年時は、親友と共同代表を務め、上海訪問企画を成功させた。「活動を通じて、学校外のすてきな大人や先輩・後輩に出会えました」。もっと世界を知りたくなり、2年時の夏にはインドに1カ月、留学した。

親友の後押しで受験

推薦入試受験について、親や先生からは「頑張れば一般入試で入れる学力があるのだから、賭けに出なくても…」と心配されたが、親友に「お前が受けなくて誰が受ける」と背中を押され、受験を決めた。

高校の先生による推薦書や事前に課された小論文、活動内容を証明する書類として「あいでみ」の報告書などを提出。「分厚い書類になりました」

苦労したのは志願理由書だ。中学生の時に出会った東大生が夢を語る姿にあこがれたこと、ずっと建築に関心があったこと、「あいでみ」の活動やインド留学で学び、考えたことをどう結びつけるか。出願直前まで何度も書き直した。「仕上げた時には、高校生活を自分なりに整理して、建築学を学びたい思いと結びつけることができました」

面接というより対話

書類選考に通り、個人面接に臨んだ。工学部の先生たちからは「大学に入ったら、どういう国際的な活動をしたい?」といった質問を投げかけられ、高校までの経験をまじえながら、東南アジアなど途上国とかかわりたい思いを話した。「面接というより対話で、楽しく話せました。これまで取り組んできたことを出し切れた充実感がありました」

センター試験で、推薦入試の基準点を超え、一般入試に向けた勉強をしている時に合格の知らせが届いた。「たとえ、合格しなかったとしても、受けてよかったと思える推薦入試でした」

高校生活を通じ勉強は学校の授業を中心にし、塾・予備校は、3年生の冬季講習しか行かなかった。推薦入試の対策は、高校の先生に志願理由書の確認と模擬面接をしてもらった。

大学1・2年時は教養学部理科一類で、一般入試の合格者と共に学びながら、推薦入試合格者向けの教育も受ける。「教育、心理学、異文化など学びたいことがたくさんあります。人間にかかわる学問はすべて建築に役立つと思っています」