お弁当甲子園は、自作・他作を問わない手作りのお弁当を写真におさめ、そこに込められた気持ちを俳句・川柳など17文字のメッセージに込めることで、絆や家族愛を認識してもらうことを目的とするコンテストだ。2012年より開催し、3回目を迎えた今年は1618人もの応募があった。その中から選ばれた受賞者たちを招いた表彰式の様子を取材した。
気持ちの込もったお弁当がコミュニケーションツールに
9月27日に行った第3回お弁当甲子園の表彰式は、晴れやかな舞台にふさわしい快晴となった。会場となった鎌倉女子大学(大船キャンパス)に集った受賞者は皆、緊張した面持ちで式に臨んだ。
表彰状授与では、最優秀賞受賞者から入選者まで一人ひとりに表彰状と記念品が手渡された。ようやく笑顔がこぼれる受賞者たちに、惜しみない拍手が送られる。その後、審査委員の高橋ひとみ准教授による講評があり、俳人の黛まどか審査委員長の講評を司会者が代読した。
表彰式後に行われる懇親会の前に受賞者は、高橋准教授の案内でキャンパスツアーに参加した。家政学部、児童学部、教育学部を擁する同学の実習棟には、様々な実習設備が揃っている。栄養学・調理科学実験室には、食品の粘りを測定するテクスチャ・アナライザーが。科学的に栄養学を究める機器に感心する様子が見られた。
和やかなムードで行った懇親会では、もう一人の審査員、山口真由専任講師が「普段、調理指導をしているので、お弁当そのものを注視しがちですが、皆さんの思いの詰まった言葉に、コミュニケーションツールとしてのお弁当の可能性を感じました」と感想を述べた。
毎日欠かさず愛情を込めて作るお弁当や、逆に日頃受けている愛情に感謝の気持ちを込めて作るお弁当には、伝えたい気持ちが満載だ。そこに言葉を添えたことで、まわりの人々もまた、愛情のおすそ分けをいただいたような幸せな気持ちになるコンテストとなった。
<黛まどかさん(俳人)全体講評>今回のエントリー作品には、家族愛はもちろんのこと、郷土愛や隣国、隣人への思いなど様々な愛が表現されているものがあり、お弁当のさらなる可能性を感じました。お弁当には作る人の凝縮された思いが詰まっていて、蓋を開けた瞬間にその思いが溢れ出すかのようです。お弁当を作ることは愛を伝えること。食べることは愛を受け取ることなのだと思います。
<黛まどかさん講評> 横田万弥さんは震災で親御さんを亡くされました。しかし万弥さんにはお母さんのようにお弁当を作ってくださる友だちのお母さんがいます。「あたたかさ」には、お弁当のあたたかさと共に人と人のつながりのあたたかさが伝わってきます。お弁当は何も語りませんが、その温もりから日々「一人ではない」ことを実感し励まされているのです。お弁当を食べる度に噛みしめる周囲の人々の深い思い。友人のお母さんに、万感の思いを込めた17音のメッセージを送る万弥さんです。
<審査委員 高橋ひとみ准教授 講評> このお弁当は手作りの持つぬくもり、素朴さがストレートに伝わってきます。「料理をあつらえる」という言葉があります。単に料理を作るのではなく、食べる人を想い、健康を考えて栄養のあるものを作る。優しさに溢れた素敵なお弁当だと思います。
震災で親を亡くした横田さんには、高校入学以来、毎日お弁当を作ってくれる人がいる。小中高とずっと一緒の友人のお母さんだ。「高校に入学する時、『お弁当どうするの?』と聞かれ、『おにぎりでも作っていきます』と答えたら、『いくつも作っているから』と、毎日、友人に私の分のお弁当も持たせてくれるようになりました」と横田さん。感謝の気持ちを形にしたいと今回、お弁当甲子園に臨んだ。
同時に横田さんは「まわりの人が私を支えてくれるのは、親が生前に大切にしてきた地域の人々との交流のおかげだと思っています。親にも感謝し、『私はみんなに支えられて頑張っているよ』と伝えたいです」と、亡くなった親御さんへの思いも語ってくれた。
<黛まどかさん講評>ボリュームたっぷりのお弁当には働き盛りのお父さんへの感謝の気持ちが込められています。本当はいつもいつも感謝しているのです。もっと口に出して「ありがとう」と言いたいのです。でも面と向かってはなかなか言えないので、その思いをお弁当に詰めました。短いメッセージからもお弁当からも岡部さんの思いが溢れています。
<審査委員 山口真由専任講師 講評>オクラをベーコンで巻いたり、卵焼きも具を入れてひと工夫したりとたくさんの素材を上手に使ってお父さんへの感謝の気持ちをぎゅっと詰めたお弁当です。こんな素敵なお弁当を娘に作ってもらえるお父さんは本当に幸せ者ですね。
最近、少しメタボ気味というお父さんのために、野菜たっぷりのお弁当を作った岡部さん。「普段はお互い必要なことしか話しませんが、通学するのに朝早いので車で送ってくれたり、料理好きで夕飯を作ってくれたりする父に、お弁当で感謝の気持ちを伝えたかったんです」と照れ笑いする。
岡部さんのお父さんは以前、プロの料理人だった。家庭科部に所属する岡部さんが、たまに家で作るお菓子にアドバイスをくれるそうだ。「ちょっとうるさいけれど、おいしいと言ってくれる時はうれしい」と岡部さん。
将来の夢はまだ決まっていないが、今はお父さんのように料理の腕を上げるのが目標だ。
<黛まどかさん 講評>なんとかわいいお弁当でしょう! 雨降りの日も、こんなに愛らしいお弁当を見たら心が晴れますよね。レインコートを着た男の子と女の子の横にはてるてる坊主まで添えられています。「どうか晴れてよい1日になりますように」そんな母の願いが託されたお弁当です。「母の味」は心の雨雲を吹き飛ばしてくれる力を持っています。
<審査委員 山口真由専任講師 講評>気分が滅入りがちなお天気でも、お弁当箱を開けて心だけでも晴れ晴れしてほしいと願うお母さんの気持ちが伝わってきます。「心が晴れる母の味」ということで、可愛らしい見た目だけでなく味わうことでさらに笑顔になるお弁当なのでしょう。
衛生看護科のため、実習で忙しい西元さんの一番のサポーターはお母さんだ。娘のために、体育祭の時はハチマキ姿、節分の時には鬼、ひな祭りの時はお内裏様とお雛様など、凝ったキャラ弁を欠かさず作ってくれる。一番好きなおかずは玉子焼きだそうだ。「出汁巻きで、ネギやしらす干し、ピーマンなどいつも違う具が入っているんです」。
そんなお母さんのことが「大好き」と言う西元さん。「毎朝5時に起きてお弁当を作ってくれます。妹と弟の世話で大変なのに、めんどうがらずに私の話を聞いてくれ、相談するといいアドバイスをしてくれる母に『いつもありがとう』と言いたくて」と西元さん。そんな母娘をつなぐ絆となっているのが、「お弁当」なのだろう。