埼玉医科大学 保健医療学部 理学療法学科 がん理学療法ゼミ 小関要作助教にお話しを伺いました。
病気やケガで失った日常生活を取り戻す
理学療法士という仕事を知っているだろうか? 病気やケガで体に麻痺が残るなど、以前と同じような活動ができなくなった人に対し、リハビリテーション医療を行う国家資格の専門職だ。リハビリテーション専門職の国家資格はほかに、作業療法士や言語聴覚士などがあるが、それらとの違いは、立つ、座る、歩くなど日常の基本動作を中心に生活の改善を図ることにある。
「スポーツ選手がケガをした時、競技復帰し、元通りのパフォーマンスができるようサポートするのも理学療法士の仕事のひとつです」と小関要作先生。「ただ、私たちの研究室で特に力を入れているのは、がんのリハビリテーションです。がん理学療法のパイオニアである高倉保幸学科長を含め、5人の教員が指導にあたっています。」
がん理学療法とは?
日本では、がんは2人に1人が罹患(りかん)し、死亡原因の1位でもある、いわば国民病だ。「ですが、がん理学療法はまだ広く知られておらず、その普及、啓蒙にも本学は力を入れています。」
がん自体は肺がんや胃がん、乳がんなど部位によっていろいろで、それによって理学療法の内容も変わってくるという。たとえば、肺がんで肺を切除し疲れやすくなれば、歩く距離を少しずつ伸ばす指導を行うし、乳がんは手術によって腕が上がりにくくなることがあるため、腕の可動域を広げるストレッチや自主トレーニングの指導を行うなどさまざまだ。
身体のケアだけでなく心のケアも必要な理学療法
ただし、研究室ではこうしたがん理学療法の技能を学ぶわけではない。サバイバー(がん患者やがん経験者)とケアギバー(サバイバーの家族)を支援するチャリティー活動「リレー・フォー・ライフ(※)」や、彼らが集まるサロンに参加し、対話やアンケートで彼らの悩みやがん理学療法の課題を情報収集する。
「これらの活動でわかったことは、がんを患った人は、仕事や運動をやめてしまう人が多いということ。その理由には体力への不安はもちろん、治療が終わったあとの生活に関わる情報や指導が不足していることなどがあげられます」と小関先生。病気をめぐり、どんな問題があるかを知ることで、学生は自分自身の研究テーマを探っていく。
また、理学療法士には、身体的働きかけに加え、心理的働きかけも求められる。というのも、がんを患った場合、人によっては「死にたい」と弱気になる人もいるが、理学療法を通じて生きる力を取り戻す人もいる。「理学療法を行いながら対話するため、コミュニケーションスキルが不可欠です。」
小関先生は同学で学ぶメリットを3つ挙げてくれた。ひとつは学生に対する教員数の多さだ。さまざまな分野の専任教員がいるため、興味に応じた分野の勉強ができる。2つ目は病気に関する授業が豊富であること。附属病院があるため、現役医師の指導も受けられ、人体解剖などによってより深く人体について学ぶこともできる。3つ目は大学病院など高度医療機関への就職率が高いことだ。
小関先生は最後に「理学療法は運動を用いるため、簡単な力学の知識などが求められますが、論理的思考力も必要です。なぜなら、患者さんの目標に応じたプログラムを提案することが大切だからです。また、人対人の仕事なので、人に興味があることが重要です」と高校生にメッセージをくれた。
※リレー・フォー・ライフ… 1985年、アメリカで一人の医師が24時間走り続け、アメリカ対がん協会への寄付を募った。「がん患者は24時間、がんと向き合っている」と考え、その思いを共有するために走り支援する活動として、今では世界中に広まり、日本でも2007年にスタート。2019年は全国約50カ所で活動が行われた。
先輩に聞く
保健医療学部理学療法学科4年 天野雄太さん(埼玉・埼玉平成高校卒業)
1・2年次の頃は力学や病気についての知識を学んできましたが、3年次以降、治療の授業や実習で、これまで学んできた知識の点と点がつながり、おもしろく感じています。卒論テーマは「練習頻度の違いによる非利き手での書字正確性の向上」。脳卒中で利き手に麻痺が出た人が、反対側の手で字を書くことは絶対に必要な生活スキルと考え、着目しました。本学のよさは、ひとつの病気に対して、複数の先生の考え方を学べることです。文系出身の私でも大学のサポートでしっかり学べてきたので、理系でなくても関心があればぜひ挑戦してください。