木工職人や林業家、漁業家……高校生が普段ならなかなか接することのない日本の職人たちとの出会いでどんなことに気付くのか。そうした森や海、川の名人に取材し、文章にまとめる「第17回聞き書き甲子園」(実行委員会主催)に参加した高校生を紹介する。(中田宗孝)
子どもの木工玩具を作る職人を取材
幼いころから「たくさん魚が釣れる綺麗な川が好きだった」という阿部匠吾君(神奈川・シュタイナー学園高等部、当時3年)。いつしか綺麗な川を育む森や木に興味を抱き、深く知りたいと思うようになり、参加した。
阿部君が訪ねた名人は、群馬県の山村で木工玩具の製造・販売を行う大野修志さん。「森の名人」の大野さんは、約30年前にサラリーマン生活を辞め、家族で群馬の山村に移住。その後、同地に工房を建て、早朝6時から20時まで毎日、象やイルカといった動物の背板が特徴の子ども用の木製の椅子などを作っている。この「アニマルチェア」のモチーフとなる動物は、現在40種類以上にのぼるという。
「誰かの真似は絶対しない」木工職人の誇りに感銘
昨年9月~11月中の4日間をかけて、大野さんへの聞き取りを行った。阿部君は、木工職人として名人が抱く「誇り」に驚かされた。「名人はものづくりにおいて、誰かのデザインを真似たり参考にしたりは絶対にしない。『それをしても意味はない』とも。そんな自分を貫き通す強い信念に圧倒された」
事前に阿部君は、専門書などで林業について詳しく調べて臨んだ。だが、自ら考察した日本の林業の展望を大野さんにぶつけてみると、「ボコボコに論破されてしまった(苦笑)」そうだ。「実際に森の現場を熟知している生の声は、説得力がありました。ただただ、自分の幼さを痛感しました……」
聞き書きを通じて阿部君は、「名人の揺るがない意思の強さと、行動力に深く感銘を受けた」と話す。「自分が思ったことを必ず実行に移すのが凄いし、見習いたいと思いました。次に大野さんと会う時までには、誇れるような生き方をする自分になっていたい」