今や人工知能(AI)は身近な存在になった。生活を豊かにする一方、「人間の仕事を奪う」ともいわれている。AIに関する研究に取り組む東京大学教授の古澤明さんと慶應義塾大学教授の山口高平さんらが3月、「第7回科学の甲子園全国大会」のシンポジウムに登壇。高校生は今から何をすればAIに負けず、これからの時代で活躍できるのかを語った。 (文・写真 中田宗孝)
悲観しなくて大丈夫
初めに、大手シンクタンクが2017年に発表した「AIやロボット技術の進化によって、30年の日本の雇用環境はどう変わるのか」についてのデータが提示された。30年の雇用者数は、今と比べて約240万人減少すると試算されているという。
職種別に見ると、会計・庶務などのホワイトカラーの職業が約186万人減、農業が約50万人減、医療・介護・健康サービス業が約27万人減。驚きの数値だが、古澤さんは「正直、気にするデータではない」と言い切る。
「AIが今より高性能になったとしても、私たちが条件反射のように自然にできる、まさに機械的な作業を、人間よりも早くこなせるAIが代替するだけのこと。ですので、将来をそこまで悲観しなくても大丈夫」
「AIが不得意なこと」磨こう
一方で、30年、AIの開発やサービス運営に関わる仕事は約74万人、仮想現実(VR)産業は42万人、雇用者数がそれぞれ増加するという。
この結果を受けて、山口さんは「将来、AIの進化によって新しい仕事が生まれる可能性は大いにある。だが、現状のAIには不得意なことがある」と話す。「それは、クリエイティブ(創造的な仕事)、デクステリティー(手先の器用さ)、ソーシャルインテリジェンス(相手の気持ちを思いやる)の3つ。逆を言えば、これらの能力を皆さんが磨けば、どんな職種でも必要とされる人材になれます」
高校の勉強が役立つ
古澤さんによると、AIの世界を生きるのに必要なのは幅広い知識だという。「高校で基礎学力を身に付けることで幅広い知識を得られます。今、励んでいる受験勉強が、まさに基礎学力の向上に最適なんです。私は若いころ、米国留学を経験しましたが、高校時代の受験勉強で得た基礎学力がとても役に立ち、海外で困ったことは何一つありませんでした。日本の教育レベルはとても高いので、ぜひ受験勉強に励んでください。苦しい受験を乗り越えた先の、大学ではパラダイスが広がっています」