宇宙の仕事と聞くと、まず思い浮かぶのは宇宙飛行士だろう。だが、それだけではない。宇宙に関わる仕事は多種多様だ。今回は、JAXA(国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構)の職員として4月で3年目を迎える若手研究者・杉村さゆりさんに、仕事内容やこの仕事に就くまでの歩みなどを聞いた。(中田宗孝)
技術職の仕事
誰もが認める機器作りたい
JAXA 研究開発部門 第一研究ユニット
杉村さゆりさん
宇宙と電力に関わる研究者
私は主に、宇宙機の電気に関わる研究をしています。具体的には、人工衛星に搭載されている各機器に、どの程度の電気を分け与えるのかを決める「電力制御器 (パワーコントロールユニット)」を「今よりも長持ちさせられないか」「小型・軽量化できないか」と考えるのが仕事です。
研究開発に行き詰まることもあります。それでも、私のアイデアを先輩たちに「いいね、面白い」と褒められたときは、やりがいを感じ、自信にもなります。いつか、誰もが認める電力制御器を開発して、実際に使われることが大きな目標です。
きっかけは「はやぶさ帰還」
高校時代は、文化祭の演劇用の衣装制作に率先して取り組むなど、ものづくりが好きな生徒でした。宇宙の仕事に興味を持ったのは大学3年生の時。小惑星探査 機「はやぶさ」の帰還のニュースに夢中になったんです。大学院進学のため、はやぶさを開発した宇宙科学研究所を見学する機会と重なり、宇宙への関心がより 強くなりました。宇宙の仕事に携わりながら世の中のためになるものづくりがしたい、という思いからJAXAに入り、今に至ります。
深く考える力を養おう
宇宙に関わる仕事に就こうと頑張っている高校生の皆さんには「何事も深く考える力を養おう!」と伝えたい。普段の日常生活で思わぬハプニングに出合うこと があるはず。そんなときは「なぜそうなったんだろう」と疑問を抱き、じっくりと考えてみてください。宇宙の仕事は、固定観念に縛られず、広い視野で取り組 むことが大切。目の前で起こった出来事や現象を深く考え続ける毎日が、宇宙の仕事に必ず役立ちます。
文理幅広いJAXAの仕事
杉村さんのような理系出身の「技術職員」ばかりでなく、文系出身の「事務職員」が活躍する宇宙事業もあるという。さまざまな業務を経験してきたJAXA広報部の職員に、JAXAにはどんな職種があるのか聞いた。
理系の仕事って何がある?
ロケット、人工衛星、宇宙ステーションの開発や運用、宇宙・航空技術の研究開発などの技術職がある。フライトサージャンという宇宙飛行士を専門に診る医師もいる。
例えば…
宇宙飛行士をサポートする研究者
以前は宇宙空間で使う放射線計測器の開発の仕事をしていました。宇宙飛行士が宇宙で浴び続ける放射線量が健康に影響ないかどうかを測る機器です。(永松さん)
宇宙で使う機器を開発する技術者
大西卓哉宇宙飛行士が宇宙でのマウス飼育の際に使った「小動物飼育装置」。技術職員が構想の立案、設計要求の作成、試作機を用いた試験などを開発メーカーと協力しながら行いました。(藤本さん)
文系の仕事って何がある?
会社の資産を管理する財務部やJAXAのニュースを伝える広報部など、一般企業と変わらない部署もある。次のようなJAXAならではの仕事も。
例えば…
海外の機関とやりとりする仕事
調査国際部は主に米国やカナダなど海外の宇宙機関とやりとりをして情報収集や仕事の段取りを確認します。外国人を相手にするため、英語はもちろん中国語やフランス語といった世界各国の言語を扱える職員がいます。(岸さん)
ビジネスプランを練る仕事
JAXAの宇宙開発技術を民間の企業で生かせないかと考えているのが新事業促進部。この部署には文系・理系の職員が所属して、日々ビジネスプランを練り、企業側に提案しています。(伊佐さん)
JAXAで働くための進路は?
技術職は理系の大学や大学院、事務職は学部を問わず文系・理系の大学に進学する人が多い。簿記の専門学校を卒業して、財務部に採用された職員もいる。
アドバイス
宇宙の仕事をしたいと漠然と考えている人は、まず自分は宇宙に関わる何をやりたいのかを思い描くことです。そうすると、どんな勉強が必要なのか、どんな進路があるのかが、おのずと見えてくるはずです。(岸さん)