全国高校総体(インターハイ)陸上の男子ハンマー投げ決勝が7月29日にNDソフトスタジアム山形(山形県天童市)で行われ、5投目に63メートル93をマークした中村美史(兵庫・市尼崎3年)が初優勝を果たした。(文・小野哲史、写真・幡原裕治)
優勝しても「悔しい」
ハンマー投げでは自身初となる全国大会での優勝だったが、中村に笑顔はなかった。
「大会記録(65メートル66)更新を目指して練習してきて、高校記録(68メートル33)も狙っていたので、悔しい気持ちの方が大きいです」
支部大会、兵庫県大会と66メートル台を連発し、近畿大会では最終の6投目に高校記録まであと11センチに迫る68メートル22をマーク。それを思えば、63メートル台の優勝記録では物足りず、納得できないと考えるのも仕方なかったかもしれない。
「近畿大会後に調子を落としましたが、今大会の1週間前になって調子が上がってきて、昨日も良い調整ができました。でも、本番は速く回ろうと意識しすぎて、うまくいきませんでした」と、中村は優勝トロフィーを手にしながら肩を落とした。
追い込まれてから逆転「肩の力抜けた」
試合展開も苦しかった。試合前に立てたのは「64メートルぐらいを1投目に投げて、あとは自分と「戦いで記録を狙っていく」というプランだった。実際は、第1投でトップに立ったものの、62メートル85と大きなアドバンテージは得られなかった。そればかりか藤本智大(兵庫・自由ヶ丘3年)に第2投で逆転を許し、追いかける展開を強いられてしまう。「抜かないといけないし、記録も出さないといけない。肩の力みが全然取れなかった」と話す中村は、3投目も記録を伸ばせず、4投目はファウル。完全に追い込まれていた。
そんな中村の窮地を救ったのが、市尼崎OBで前回のインターハイ覇者・服部優允(現・中京大)だった。インターネットのライブ中継で中村の試合を観戦していた服部は、市尼崎陣営に電話で「スイングしてから1ターン目が速くしようとしすぎている。ゆっくり自分のリズムを意識しろ」とアドバイス。それを後輩から伝えられた中村は、「肩の力が抜けて、5投目で逆転することができました」と振り返る。
今後は「70メートルにこだわっていきたい」と中村。その前に8月2日の円盤投げでインターハイ2冠に挑戦する。「気持ちを切り替えてやりたいです」と自分自身を奮起させた。