英教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」(THE)を運営するTES Global社は、世界大学ランキングの「日本版」を初めてまとめ、3月30日に発表した。国内外の受験生の大学選びや大学改革に役立ててもらうことなどが狙い。日本のベネッセグループの協力を得て「学部の教育力」に焦点をあてた。総合ランキングは首位の東京大をはじめ研究型総合大学が多く入ったが、分野別では「教育満足度」首位に国際教養大学が入るなど教育を重視する大学もランクインした。(西健太郎)
「世界版」とは異なる指標で435大学を調査
THE誌が発表する世界大学ランキングは、大学の研究費収入や論文被引用数など「研究力」に焦点をあてており、最新の集計ではランクインした980校中、日本の大学は69校。最高順位は東京大の39位だった。一方、今回発表された「日本版」は、国公私立435大学を対象とし、独自の指標で「教育力」を測ることを目指したという。具体的には、大学にデータの提供を依頼したり、ベネッセが実施するテストやアンケートの結果を活用したりするなどして(1)教育リソース(学生一人あたりの資金や教員数、合格者の学力、教員の一人あたりの論文数など)(2)教育満足度(高校教員へのアンケート)(3)教育成果(企業の人事担当者や研究者へのアンケート)(4)国際性(学生や教員に占める外国人の比率)―の4分野を設けて集計した。
「総合」1位は東大、「満足度」は国際教養大
4分野を総合した結果の1位は東京大。以下、(2)東北大(3)京都大(4)名古屋大と東京工業大。10位までは、世界ランキングの国内上位大学とほぼ重なる結果となった。一方で、分野ごとのランキングをみると、高校教員に大学の印象を尋ねたアンケート結果を反映した「教育満足度」では、すべての授業を英語で開講する国際教養大学が1位(総合ランキングでは20位)、独自のリベラルアーツ教育で知られる国際基督教大学が10位(総合15位)に入ったのが目立つ。外国人比率を反映する「国際性」は、立命館アジア太平洋大学が1位(総合24位)で、大阪経済法科大学、東京国際大学(総合141~150位)と続いた。「教育リソース」は医科大学が上位10位中3校を占め、医学系の研究者の論文数や資金力が反映したとみられる。
次回は「学生満足度」など指標の追加を検討
指標をみると、論文数や、研究費の獲得数など研究重視の大学に有利な項目もあり、総合順位にも影響したとみられるが、調査担当者は「研究に裏付けられた教育も重要」と説明する。ベネッセの藤井雅徳・大学・社会人事業本部長は「現時点では最高のものができた」としつつも、次回調査では、大学生に満足度を聞く調査を実施したり、学生の進路決定率を反映したりするなど、項目の追加を検討していることを明らかにした。
THE誌のフィル・ベイティ編集長は「日本の大学の強みを世界に発信できる」と今回のランキングの意義を強調しつつ「日本の大学は、(外国人比率などの)国際的な多様性がアジアの中でも不足している。(少子化など)人口動態の変化にあわせること、独立性を高めること、他大学と差別化すること」が必要とも話した。
ベネッセの藤井さんは「東大、京大、大阪大が推薦入試などを取り入れるなど入試が多面的・総合的な評価に移行している。受験生も大学を多面的・総合的にみるきっかけになる。学部(の4年間)は教育の強い大学で学び、大学院は研究大学に進むという道もある」と、ランキングを大学選びの多様化に役立ててほしい考えだ。
ランキングを見る際は順位の根拠を確かめて
【解説】ランキングは、調査項目や重点の置き方など設計により順位が大きく変動する。今回の日本版の順位をみる際も、集計の根拠となっている指標をふまえることが大切だ。また、高校生の進路選択の際には、学問分野や、受けたい教育内容により「よい大学」は異なるだろう。日本版の大学ランキングは、次回調査では指標の追加などの改善を目指しているという。高校生のニーズにきめ細やかに応える調査になるかが、進路選択の参考資料として定着するかのカギになりそうだ。