10月5日、ぎふ清流国体の陸上少年男子100㍍で10秒21の高校新、ジュニア日本新記録を達成した桐生祥秀(京都・洛南2年)=滋賀・彦根南中出身。快走の裏には、競技に対するひたむきな姿勢があった。 (文・写真 白井邦彦)
桐生は特別な練習メニューを積んできたわけではない。陸上部の一員として、他の部員と同じ練習を行い、皆と一緒にグラウンド整備をする。毎朝5時50分の電車で片道90分かけて通学する。特別な才能は持っているが、特別扱いされない環境で、「0.01秒でも速く走りたい」と自分を磨いてきた。
これまでのジュニア日本記録を0.02秒上回るタイムで走破した国体では、タイムよりも1位にこだわった。理由は4位に終わった全国高校総体(インターハイ)の悔しさにある。「インターハイの決勝では隣のレーンに(優勝した)大瀬戸一馬選手(福岡・小倉東3年)がいた。それを意識して自分の走りができず……。国体では、とにかく優勝したかった」と言う。インターハイ後、意識したのはレース前半で周りを気にせず、下を向いて走ること。国体の準決勝では力んでフライングをしてしまったが、決勝では自分を取り戻し、ゴール後には「勝てたことがうれしくて」普段は見せないガッツポーズも出た。インターハイの悔しさを晴らす納得の走りだった。
柴田博之監督(49)は「正確な動作を長く継続できる。特に60㍍以降の減速率が低い」と桐生の強みを説明する。背景には、決して楽しいとはいえない反復練習を、部員同士で続けてきた日々がある。0.01秒を追い求めながらも、「1位になった瞬間が一番うれしい」と 桐生が言うのは、インターハイ総合優勝を狙うチームの一員という意識が高いからだろう。偉大な記録を樹立してなお、おごらず、ひたむきに走り続ける。
TEAM DATA 洛南陸上部
部員49人。今夏のインターハイ男子学校対抗で24年ぶり3度目の総合優勝を達成。2004年のアテネ五輪・マイルリレーで4位入賞を果たした山口有希、05年の世界陸上男子マラソン日本代表の高岡寿成ら名選手を輩出している。柴田監督も同校のOBで、走り幅跳びでソウル五輪に出場した経験を持つ。
きりゅう・よしひで 1995年12月15日、滋賀県生まれ。小学生時代はサッカーをしていたが、兄の影響で中学から陸上を始める。昨年の山口国体では少年男子B・100㍍で優勝を果たした。9月の近畿高校ユース陸上対校選手権大会では200㍍で高校歴代2位タイ記録となる20秒71をマーク。175㌢、66㌔。